Sunday, March 05, 2006

いままさにピーク/peak oil is with us now.


3月2日付けのニューヨークタイムス紙に論説委員のひとりで、1996年にピューリツァー賞を受賞したロバートB・センプルJrによる「The End of Oil」という長文記事が載っており、かなり詳細にオイル・ピークを解説し、「ほぼ間違いない」と結論しています。

元の記事は有料ですが、原文はこの記事でも紹介されているEnergy Bulletinのサイト、NY Times: The end of oilに掲載されています。ピークに関してはいくつか、毎日チェックするサイトがありますが、Energy Bulletinもそのひとつです。ピークに興味のある人はぜひ覗いてみてください。

NYTの記事はピーク初心者向けにも分かりやすいように、ハバートの分析方法から始まり、ディフェイスの説、マット・シモンズのサウジ埋蔵量懐疑説など、このブログでもすでに紹介したひとびとの言葉が紹介されています。新技術などに過大な期待をかけ、時期については楽観的すぎるものの、タイムズのようなメインストリームの媒体がピークについて「ほぼ間違いない」としていることには価値があると思います。

この記事を受け、EBの記事「US Congressmen distribute NY Times op-ed piece to House colleagues」によれば、翌日、やはりこのブログでも取り上げたロスコー・バートレットとトム・ユダールらピーク・オイル議員連盟が記事の写しを米議会の全議員に配り、連盟への参加、そして「マーシャル・プランやアポロ計画に匹敵する規模のピーク対策」を訴える決議への賛意を募りました。
(参照記事:オイル・ピークに関し米議会で公聴会/Oil Peak vs the Congress

「ブッシュ大統領が2006年の一般教書演説で「石油中毒」を治療しなければならないと言ったのは、主に国家安全保障の観点からでした。我々が中毒から抜けなければならない大事な理由がもうふたつありますが、大統領はそれらに言及しませんでした。どちらも、少なくとも、国家安全保障と同じくらいに火急な問題です。

ひとつは地球温暖化です。ふたつ目の理由は、それと同じくらいに私たちを脅かし、しかもつい最近になるまで、問題に見合うだけの注意を得てこなかったことです。100年以上のあいだ、我々に驚異的な経済成長を続けさせてくれた安く豊富な石油の時代、それが、気付かないうちに終焉しようとしているのです」
(ピーク・オイル議員連盟)

このタイムズの社説が「ほぼ間違いない」とした意義は認めるものの、ピークの時期がまだ(ほんのちょっとだけど)先のことだとする結論には反論も出ています。

これまで目にしたうち、もっともまとまっているのは、タイムズの記事で言及されはしなかったものの、ピークイストには人気のあるブログ、the Oil Drumのスチュワート・スタニフォードのものです。以下に、オイル・ドラムのブロッグから、彼の論点をグラフつきで抄訳します。原文は300以上のコメントが付いており、開くのに時間がかかります。また、急ぎの翻訳なのでおかしなところがあるかも知れません。意見、御指摘、よろしく。

原文:Why peak oil is probably about now

●OPECの埋蔵量は過大に見積もられている
OPECの生産当ては確認埋蔵量に基づいており、埋蔵量を誇張する誘因になっている。特定の大油田が発見されていないというのに、埋蔵量は大きく飛躍した。これらの国の埋蔵量の増加はあまりに信じがたく、虚偽申告ではないかと思われる。そして、そろそろ、そのぼろが出始めているのかもしれない。最近になって、クウェートの埋蔵量は言われている量の半分にも満たないことを示す内部資
料をPetroleum Intelligence Weeklyは報告した。
(参照記事:水増しされたクウェートの原油埋蔵量/Kuwait reverses its oil reserves.

ここが要めだというのは、世界に残るとされる石油埋蔵量の2/3がOPECにあるからです。そして、オイル・ピークは10年以上後のことであるとするシナリオのすべてがOPECの増産を見込んでいるからです。

opec_reserve_growth.gif
グラフ:OPECの確認埋蔵量の推移
単位:10億バレル(=ギガバレルGb)
1バレルは42米ガロン。
出典ソース:BP社の世界エネルギー統計レビュー。

●世界生産は、2004年後半に頭打ち
現時点で、生産は2004年後半以降、小刻みに揺れながらも平坦になってきている。現時点における生産のピークは2005年5月だった。石油価格の上昇にともない、増産への追い風があったにもかかわらず、だ。この理由として、精製キャパの不足がしばしばあげられてきた。しかし、それが事実ならば、精製しにくい重油は安くなっていいはずなのに、値段は下がっていない。

monthly_total_jan06.jpg
グラフ:月毎の日産平均石油生産量の推移
液体のみと思われる。グラフはゼロスケーリングされていない。
データ:IEA、EIA。 IEAの生ラインは毎月初めに出る数字。IEAの修正済みライン
は実際の生産に基づき月毎に修正した数字で、翌月に発表される。

●OPEC、そして非OPEC産油国ともに頭打ち状態

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グラフ:OPECとOPEC非加盟国について、これまでに最も生産の高かった月(OPEC非加盟の産油国の場合2005年5月、OPEC諸国は2005年9月)に対する毎日の産油量を月毎に平均したものとの比較。液体のみと思われる。グラフはゼロ・スケーリングされていない。
データ:EIA。


●既存の油田は非常に高い率で衰退する

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グラフ:上場する上位10国際石油会社の日産平均生産量の推移
データ:ペトロリアム・レビュー

多大な努力を投入しているいるにもかかわらず、メジャー国際石油資本は、ここしばらく、石油の増産をできないでいます(子会社を通じ、復活するロシア油田に接近することに成功したBPは注目に値する例外)。

エクソンの生産を分析すると、問題が浮かび上がってきます。同社の既存油田での生産は年率6%から14%、場所により違いはあるものの、明らかに減退しています。毎年、新しく生産の開始される油田は現在生産中の油田の減退を相殺するだけです。このことから、同社がピークに達したか、あるいはピークに接近していることがわかります。つい最近の数字ですが、2005年に同社は生産中の油田の減退分をほとんど補いませんでした。同社がその代わりに新たに開発したと申告したエネルギー埋蔵量のほとんどすべてはカタールの天然ガスです。シェルの場合はもっと深刻で、2005年に減退分の埋め合わせができたのは現生産の60%から70%だけ、2004年には19%だけしか新しい油田で置き換えることができませんでした。

OPECの状況もそれほど変わりません。米EIAによると、サウジアラビアは毎年5%から12%の生産減を続けています。新しい生産を始めなければ、現状レベルの維持もまかりならないのです。同様に、イランの生産は、毎年8%から13%の減少が見込まれています。

これが私にとっては、世界のオイル・ピークが近いことを示す最も説得力のある理由です。毎年生産レベルを維持するため、減退分を補うのに必要な新たな生産は莫大な量になります。アメリカがオイル・ピークに達した時、これが大きな兆候でした。割当てがすべて取り除かれ(テキサスでは割当てシステムによる産油管理が続いた)、増産のために多大な努力が払われたにもかかわらず、生産は再び上向きになることはありませんでした。注目すべきは、昨年、OPECはすべてを増産に注ぎ込んでいる、事実上割当て制がないかのような発言を何人もののOPECの職員があちこちでしていることです。

●ハバート曲線はオイル・ピークを示す

埋蔵量のデータは往々にして当てにすることができないので、オイル・ピーク論者はハバートが編出した方法、生産統計から推定する方法を好みます。このやり方には元データに基づく誤差があり、すべての国に適用できるわけではありませんが、アメリカについては、石油が1970年代に生産ピークに達するだろうと正しく予測しました。ハバートの方法を世界に適用すると、現在ピークにさしかかっていることがわかります。ディフェイス教授の有名な「2005年感謝祭=世界オイル・ピーク」予測の基礎です。私自身の分析によれば、世界オイル・ピークが訪れるのは2007年5月(誤差4.5年)です(したがって、ディフェイス教授の予測も私の誤差範囲の中に入ります。ディフェイス教授は誤差を考慮しませんが、それぞれの生産統計の間には違いがあり、それにより、はじき出される答えも違ってくるものです)。
(参照記事:ハッピー・オイル・ピーク・デイ!?/Happy Oil Peak Day!?

●少なくともひとつの大石油会社警告を発している
シェブロンは「私たちに加わりませんか」という広告キャンペーンを実施している。より多くの石油を見つけ、より多くの石油を生産するのがしんどくなり、発見するよりはるかに多くの量の石油を世界が消費しており、そろそろ節約しませんか、とシェブロンは警告している。自分達の主力商品をがふんだんにあるなら、いったいなぜ、節約しましょうなんて呼び掛けるのだろうか。

●原油価格の高騰
ここ1年間、原油価格はおよそ60ドルで推移してきたが、主要なオイルショック時を別にすれば、これまでで最も高い。高いだけでなく、価格は不安定で、配給が脅かされるというどんな徴候にも1日のあいだに、数パーセントの幅で反応する。石油価格は現在のところ高値止まりで、需要を少なくとも当分の間押さえており、株も上がっています。これは市場がびくびくとして、より多くの石油を必要としている徴候です。

●サウジアラビアの余力を示す証拠は全くない
サウジアラビアはこれまで、(唯一)生産に余力のある国だと考えられてきた。しかし、生産統計からそれを裏付けることはできない。サウジが報告する生産は1年間を通じて平坦であり、2005年9月のハリケーン被害に対応して増産したあとは少しも見られない。マニファ油田に余剰生産力があったことも考えられるが、そこのアブラはバナディアム含有が多く精製が簡単ではないはずだ。

saudi_russia_nov05.jpg
グラフ:サウジアラビアとロシアの日産石油平均の月別グラフ。液体。グラフはゼロ・スケーリングされていない。
データ:EIA表1.1

●既存の産油レベルを維持することの地政学的なリスク、気候変動のリスク
サウジアラビアの石油施設に対する自爆攻撃、それともイラン緊張なのか、ナイジェリアの反逆、イラクの抵抗、またはハリケーン、こうしたつまらない問題が、より大きな問題に変質しようとしています。これらの例のひとつでも、すでに需給がひっ迫する原油供給を脅かすなら、影響は何年もに及ぶオイルショックになる可能性があり、その影響は大規模で、何年にも及ぶでしょう。

●結論
ひとつの証拠すら決定的とは言えないのですが、それにも関わらず、全体像は、石油の生産が世界的なピークに達し、これ以上生産が増えることはないと思わせるに十分です。このまま、2005年5月が産油量で、これまでの最高の記録を維持するのか、それとも2006年、2007年のある月、それをすこしだけ上回る石油が生産されるのかどうか、それはわかりません。しかし、既存油田における生産の減退を相殺するだけの新しい生産をこれからも生み出しつづけることができるのか、私には疑問です。それは、毎年毎年、年が代わるごとに繰り返さなければならず、だんだん、大変になるのです。

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