Sunday, December 25, 2005

核サイクルへ加速するオーストラリア/Welcome to the new clear daze!

12月上旬、いくつか、重要な法案が上院で可決成立した。雇用関係を大幅に改定する法律、そしてアメリカの愛国法に匹敵する対テロ法はメディアでも取り上げられ議論を呼んだが、ほとんど注目されなかったのは放射性廃棄物処理法だ。これは北部準州にある連邦所有地に2011年をめどに、低/中レベルの放射性廃棄物の貯蔵施設を建設することを可能にする法律だ。

オーストラリアはウラン埋蔵量では世界の三分の一を持つが、これまでは核開発へのかかわりに慎重な政策をとってきた。ウランの輸出は連邦政府の管轄で、70年代から大きな論争になってきた。しばらくは、ウラン価格が低迷していたこともあり、いわゆる「3鉱山政策」のもとでウラン採掘を3つの鉱山に限る政策が保守、労働党の合意とされてきたが、現在はレンジャー(北部準州)、オリンピック・ダム(南オーストラリア)を中心に世界で生産されるウランの2割近く、9300トン(7900 tU)が毎年、オーストラリアから輸出されている。このうち、日本へは2700トンが輸出されている。

Uranium Information Centre

日本とのかかわりについては京都精華大学の細川弘明の
「豪州ウラン開発問題と日本の関わり」が詳しい。

ここ数年のあいだに核政策もすっかり積極的に変わり、核のゴミ捨て場を確保したことで、オーストラリアは核体制確立への動きが一気に加速する可能性もある。

ウラン鉱床が集中するのはダーウィンを首都とする北部準州で、準州内だけでもウラン資源は120億ドルと見積もられている。1978年に準州として制限つきの自治が認められて以来、鉱業における採掘許可は準州政府が与えてきた。6月に行われた準州議会選挙では、新しいウラン鉱山を許可しないことを公約に掲げた労働党のクレア・マーティン準州首相が再選された。

しかし、8月、連邦政府の資源大臣のイアン・マクファーレンはウラン採掘に関する決定権は連邦政府の手にあると発言し、準州政府の手から核政策に関する権限を奪い取った。言い換えれば、中国などアジア各国での核開発でウランの国際価格が高騰するなか、連邦政府は準州内で新しい鉱山を許可するぞということだ。連邦政府の発言をうけ、ウラン採掘の免許をもつ12以上の資源会社は鉱床の探索に本腰をいれはじめている。90年代に巻き起こった反対運動の結果、ストップしたままになっている世界遺産指定のカカドゥ国立公園内のジャビルカ鉱山(リオティント/ERA所有)の開発も再び遡上に上がっている。ジャビルカは存在が知られていながら未開発の鉱床のなかでは世界最大のものだといわれている。アボリジニのなかにはウラン採掘など鉱業開発に反対するものも多く、先住民族の土地所有権とからみ、反対運動が再燃することはほぼ間違いない。

6月の準州選挙の際、マーティン準州首相はウラン採掘反対のほか、核のゴミ捨て場を認めないことも公約していた。それは、国内唯一の原子炉から出る廃棄物の投棄場所として、北部準州が候補として囁かれていたからだ。

北部準州は核のゴミ捨て場に反対する

国内にはシドニー市内南部のルーカス・ハイツに出力1万キロワット、医療用アイソトープを取り出すための原子炉がある。百万キロワット級が普通な日本の原発と比べればかなり小振りだ。1960年に運転を開始、老巧化した炉に代わり、2002年から、低濃縮ウランを燃料とする軽水炉(出力2万キロワット)がアルゼンチンのINVAP S.E. 社の手で建築されている。この炉は今年12月に試験運転を始め、2007年には営業運転に入る予定だ。

このルーカス・ハイツの原子炉から出る廃棄物はこれまでフランスやイギリスに送られていたが、これが2011年から返還される予定で、連邦政府はあちこち、核のゴミの投棄場所を探していたのだ。しばらくは、オーストラリアなどからの援助が頼りのナウルに押し付けようという動きもあった。ナウルにはハワード政権が無理矢理、難民収容所を押し付けたこともあったが、破産して沈没寸前とはいえ、さすがに核のゴミだけは受け入れなかった。

国内で白羽の矢が立ったのは南オーストラリア州だ。しかし、1950年代に英国が行った核実験の記憶がなまなましく、州労働党政権の反対も激しく、この案は頓挫した。そして、新たに候補地にあがったのが北部準州だ。準州だから、州ほどに力が強くない。準州以外から放射性廃棄物を持ち込むことを禁止する法律が作られ、マーティン準州首相が選挙公約し、当選したにもかかわらず、ハワード連邦政権は、選挙の翌月、準州内にある3ケ所の連邦政府の所有地を核のゴミ捨て場にすることを発表した。今回上院で可決されたのがそれを可能にする法案なのだ。

3つの連邦所有地は爆撃訓練とかの軍事目的の土地で、ふたつはアリス・スプリングスのすぐ北にあり、もうひとつはキャサリンの郊外にある。現在のところ、連邦政府は、建造される貯蔵施設を国内の廃棄物の受け入れに限定しているが、将来はわからない。海外からの廃棄物を受け入れろ、と積極的に発言するのはボブ・ホーク前首相だ。ホーク前首相は労組委員長の出身だが、引退後、中国ビジネスに大きく食い込んでおり、核政策では現政権より積極的な発言をしている。9月末のABCテレビのインタビューで次のように発言し、世界から核のゴミを受け入れることを提案している。
「使用済み核燃料の安全な貯蔵は世界的な問題だ。オーストラリアにとっては経済的なボーナスも大きい。入超なんかすっぱり忘れていい。将来、オーストラリアは世界を安全な場所にすることで何十億ドルも稼ぐことになるだろう。毎年、毎年、何十億ドルだ」

Hawke backs Aust as nuclear waste repository

核施設というのはどこの国でもそうだが、ひとつできてしまうと、既成事実がどんどん積み重ねられていくものだ。最初は「低レベル廃棄物の中間貯蔵施設」として作られた施設が「中レベル貯蔵施設」になり、やがて「高レベル施設」になることは不思議なことではない。国内向けに作られた施設でも、政治的な環境さえ整えば、日本などアジア各国から核廃棄物を受け入れるようになっても不思議ではない。

核燃料や核廃棄物は輸送が難しいものだが、政治的な環境はともかく、すくなくとも、輸送体制はすでに整っている。

拙著「おもしろ大陸」(光文社知恵の森文庫)で、その当時(2000年)急ピッチで建設の進んでいたアリス・スプリングスとダーウィン間を結ぶ鉄道についても取り上げた。南オーストラリアのアデレードからアリス・スプリングスまでだった鉄道のダーウィンまでの延長は70年近く、手をつけられないでいたが、1420キロの延長工事は、2001年にとりかかってから2年半というこの国では異例な早さで完了した。

この路線延長の大きな理由は核燃料、廃棄物の輸送ではなかったのか、そう思わせる理由がいくつかある。まず、90年代後半、路線延長を連邦政府に働きかけたのがテキサスに本拠を置く資源開発/国防企業のハリバートン社だからだ。当時のCEOはチェイニー現米副大統領だ。この鉄道を建設し、これから50年間にわたり経営権を持つのはアドレイルADrail社で、これはハリバートンの子会社、KBR社が50%を所有する合弁企業だ。

ハリバートン社は、ZNetのジェーソン・レオポルドの記事によれば、イラクの石油権益を巡り米国防省とのあいだで秘密合意を結んでいたといわれ、9/11以降のいわゆる対テロ戦争で利益をあげる唯一の企業だとも言われている(この記事の日本語訳は益岡賢のサイトで読める)。

米国防省は秘密裡にハリバートン社にイラク石油産業運営を指名していた

オーストラリアではアデレード〜ダーウィン鉄道の建設、運行からメルボルンのF1グランプリの開催まで手広く手掛けている。2000年のシドニー五輪では選手村の設計、施行を担当、水道やエネルギーなどの公共インフラが民営化されるごとに買い漁っており、現在パース、アデレードなどの水道を握っている。もちろん、軍事プロジェクトへも激しく食い込んでおり、イラク派遣軍の施設建設や管理なども担当し、2000年にはわずか250万ドルに過ぎなかった受注額が2003年には1800万ドルと急増している。2015年完成予定で沿岸警備用に無人飛行機をつかったシステムも開発中だ。

halliburtonwatch

アリススプリングスからダーウィンまでのびた鉄道には豪華寝台車ガン号が乗り入れ、観光客の誘致も盛んだが、ハリバートン社が建築、経営に関わる鉄道は軍事利用がかなり早い時期から検討されていたようで、開通から半年もしない2004年7月には、ここ21年で最大規模の軍事鉄道輸送が行われ、200台を越す軍事車両が輸送された。

しかし、この鉄道の本質のひとつは建設前にはあまり公表されなかったが、原子鉄道であり、核燃料の輸送だ。沿線にはひとつの鉱山としては埋蔵量世界一とされる南オーストラリアのオリンピック・ダム鉱山(WMCリソ−シズ社所有)などがある。ハリバートン鉄道を使った最初のウラン輸送は2005年1月17日に行われた。オリンピック・ダム鉱山から採掘されたウランは4台のコンテナに積まれ、いったんわざわざアデレードまでトラック輸送され、それから列車に積み換えられ、40時間、ダーウィンまで輸送された。輸送が本格化すれば、鉱山から鉄道までは80キロほどなので支線が建設されるだろう。

そして、連邦政府が核のゴミ捨て場を計画する3ケ所もハリバートン原子鉄道からさほど遠くない場所にある。鉄道から支線がのびることは間違いない。ルーカス・ハイツから核廃棄物が輸送される場合も、反対や危険の多いトラック輸送ではなく、シドニーから船積みしてダーウィンへ、そしてそこから鉄道輸送というルートになるだろう。

ウラン採掘、輸出政策の見直し、核廃棄物の貯蔵施設の確保、輸送体制も整い、オーストラリアは核体制確立に向けてまい進する。
(25/12/5)

No comments: