Wednesday, May 09, 2007

現状と見通し/a peek from the peak.

4日付けのlivemintはリャド発で、アリ・ナイミ石油大臣の発言として、サウジ・アラビアが原油埋蔵量の76%増加を目指していると伝えています。現在は確認原油埋蔵量が2642億バレルと発表されていますが、さらに2000億バレル、上乗せする計画だということです。

いやあ、ものすごい数字で目がくらみそうですが、サウジがこの「埋蔵量(ほぼ)倍増計画」を口にするのは,この記事でも言及されていますが、これが初めてではありません。ナイミ石油大臣は2005年9月に南アフリカで開かれた世界石油会議でも同じような発言をしています。

「最新技術の適用により、確認埋蔵量は近く2000億bblの上乗せが行われる見込みである」

Jogmecのまとめた「増産計画と現状と見通し」(5ページ)より。

Jogmecというのは独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構のことで、「増産計画と現状と見通し」は「ピークオイル論」を否定するという立場で書かれています。

サウジのアブラ事情は「砂のベール」に包まれており、正確な情報を得ることは難しいのですが、「安定的かつ低廉な供給を資する」ことを目的のひとつに掲げる行政法人がサウジ政府=アラムコの「大本営発表」を鵜呑みにしているようではちょっと心配です。

そもそも、Jogmecに「現状と見通し」を書かせる契機となったのは、エネルギー投資銀行家のマシュー・シモンズが2005年5月に発行した「砂漠の黄昏」という本でした。ピークの古典ともいえるシモンズの著書の邦訳が「投資銀行家が見たサウジ石油の真実」というタイトルで出版されたそうです。

原本「砂漠の黄昏」の紹介

1982年にOPECは石油生産データの公開をやめ、それ以来、サウジの油田の状態についてはサウジ政府=アラムコの発表以外頼るものがないという情報統制が続いています。2005年10月に発行されたJogmecの「現状と見通し」もサウジの発表をそのまま繰り返しているにすぎません(Jogmecの「現状と見通し」はシモンズの心配をあまり真剣にとられていませんが、それが発表されて以降のサウジのアブラ生産はむしろ、シモンズの懸念を裏付けるものばかりです)。

シモンズが本書で指摘するように、それぞれの油田の状態はいまだに明らかにされていません。1990年、サウジは「埋蔵量」を前年の1700億バレルから一挙に2580億バレルに引き上げました。まったく第三者の検証を得た数字ではないにも関わらず、あたかもそれがそこにあるかのように、「確認埋蔵量」として一人歩きしているのです。現代石油文明はサウジのアブラに頼っていながら、それがどんな状態であるのかまったく知らされていないのです。

シモンズは情報統制を切り崩し、油田の状態を知るため、SPE( Society of Petroleum Engineers石油技術者協会)の発行する膨大な技術レポートなどを読み解いていきます。

たとえば、生産開始から50年以上をへてなお、世界需要の6%を供給する「石油文明の屋台骨」、ガワール油田の状態はどうなのでしょう。シモンズはひとつの章を「油田の王者」ガワールの分析に費やします。「最新技術」を駆使されて、骨の髄までしゃぶられてしまった油田は、ものすごい勢いで減耗します。北海油田やメキシコのカントレル油田は現実に、目の前で恐ろしい勢いで減耗しています。「油田の王者」、ガワールだけが自然の摂理を逃れられるとは考えられません。そして、石油文明にとっては恐ろしいことに、この巨大油田が急激な減耗を始めたとき、その穴を埋める油田はない。それがシモンズの主張の核心です。

本書の出版以来、世界各地のピーク研究者はシモンズの示した手法を用い、技術レポートの行間を読み、データをグラフで解析する作業を続けています。例えば、オイルドラムではガワールの「現状と見通し」について、技術レポートを引用した議論が続いており、サウジの埋蔵量は「1600億〜1800億バレル」という共通認識に達しつつあります。最近のオイルドラムにはSPEのレポートからガワール油田のウトマニヤ地区、アインダール地区の断面図が掲載されています。

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Oil saturation profiles in Uthmaniyah. Image source: Water in the gas tank by SS, original source is: Water Production Management Strategies in North Uthmaniyah Area, Saudi Arabia, SPE 98847, June 2006.

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Oil saturation profiles from the flank of N ‘Ain Dar. Image source: Water in the gas tank by SS, original source is: Water Management in North 'Ain Dar, Saudi Arabia, SPE 93439, March 2005.. These profiles are believed to lie just to the N of the small crest illustrated in Figure 5 of this SPE paper. They are therefore believed to mount the ridge well below the crest area of N Ain Dar.

残るアブラの層がかなり薄くなっていることもわかります。また、圧力を高めるため、長年にわたり水やガスを注入してきたため、採掘される水の比率(ウォーターカット)が増加し、現在では「アブラが浮いた水」が出てくるだけだとシモンズは指摘していますが、この断面図でもそれがわかります。

これが石油文明の屋台骨であるガワール油田の主力、北部の実情です。

まあ、はい、時間があれば石油文明の脆弱さを満天下に示した本書、手に取ってみてください。

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