Wednesday, July 30, 2008

海軍演習中止?規模縮小?/Japan's navy hit by peak oi.

日本海軍が今年秋に予定されていた演習の規模縮小,「最悪の場合は中止も視野に入れて検討している」ことが報道されています。
この演習は第二次大戦後の1954年に海軍が再建されて以来、毎年行われてきたもの。理由は「原油高」だそうです。

「海自最大演習、中止も視野 原油高で海幕長(日経)

「原油高」といわれると一過性のことのような印象を受けますが,それが軍人(そして軍を統括するはずの「文民」たち!)の時代認識だとしたらお寒い限りです。現在の「原油高」がオイルピーク以降の減耗時代の幕開けの兆候だとしたら,「原油高」は今年だけの問題ではありません。「原油高」は演習をどうするかという問題にとどまりません。アブラ供給はこれからずっと,だらだらといつまでも減少していくとしたら、軍の維持そのものに関わります。軍の人間(そしてそれを統括するはずの「文民」たち!)はまず,これが一過性のことではないことをしっかりと認識し、毎年毎年減少していくアブラ供給(と「原油高」)に備えなければなりません。「戦車や戦闘機の省エネ操縦から風呂の追いだき禁止」(「自衛隊に想定外の“敵” 演習中止も検討(スポニチ)」)なんて次元の付け焼き刃でどうにかなるものではありません。

今回の演習に関する発表は「定例記者会見」で行われたそうですが、出席した「記者」のなかにはピークという世界的な状況を理解する人は一人もいなかったのでしょうか。軍事力というとドンパチ破壊力だけを想像しがちですが、火薬や兵器の製造を含め、近代の軍隊はアブラがなければまったく機能しません。これが減耗の始まりであり,毎年3%の減耗が続いた場合10年後、20年後の国防をどうやってまかなうのか。ピーク以後の時代について、軍は研究をしていないのか。国民が知らなければならないのはそういう情報です。

アブラのピークと軍隊については世界最強の米軍の例をいくつかここで取り上げてきました。アメリカ軍はDefense Energy Support Center Fact Book(pdf)によれば一日平均30万バレル以上のアブラを消費する世界一の石油消費団体です。アメリカがアブラを獲得するために軍事力を使うのは、したがってまったく当然のことなのです。

世界最大の消費者であり、アブラ本位制の守護神としてはこれまた当たり前のことですが、アメリカ軍では2005年にオイル・ピークに備えた研究が行われています(ピークに関する研究はこれがはじめてではなく、2002年頃から研究が始まっているという報告もあります)。

それを紹介した際にも触れましたが,この「Energy Trends and Their Implications for U.S. Army Installations」という研究(pdf)の要点を再確認しときます。

●「便利なエネルギー源が安く、ふんだんに使える時代は早急に幕を降ろそうとしている」
オイルピークの見通しについて、政府機関である地質調査庁(USGS)などの楽観的な予測を退け、ピーク・オイル調査学会(ASPO)などの民間機関の予想を採用しています。

●「2003-2005年にかけての石油価格の倍増は異常なことではなく、これからずっと続くことだ。我々の生活水準を維持するため、エネルギー消費はかかせず、軍務の達成にも不可欠だ。しかし、現状の消費をこれからも維持し続けていくことはできない」
世界最大の消費者にとりピークは切実な問題ですが、世界最強の軍事力を持ってしてもどうにもならないと言うことです。

●「現在、アブラに代わりうる代替エネルギーはない」

●この研究は再生可能なエネルギー源についてそれぞれの短所と長所を比較しています。面白いことに原子力については「今のような使い捨てな利用方法では、20年もしないうちに安価なウランを使い切ってしまうだろう」とウランピークを警告し、その利用に否定的です。むしろ、太陽光や風力の可能性のほうを積極的に評価しています。

総じて,報告書は世界最大の石油消費者であり環境破壊者であるアメリカ軍からは想像できないほど「グリーン」な内容になっています。

まちがっても国防省のような大組織がひとつの報告書で変質することはないでしょう。しかし、燃料効率などおかまいなしにアブラをばんばん燃やして、世界各地に武力を展開することはこれまでのようにやっていけない。安全保障の根本的な再考をしなくてはならない。これまでのやり方はアブラ減耗の時代に通用しない。これまでさんざ放蕩の限りを尽くしてきたからなのか、アメリカ軍のなかにはそれを理解する者もいるということです。

日本軍はどうなのでしょう。軍隊の存在そのものの再考を迫るものであることが理解されているのでしょうか。いつまでも「原油高」などと一過性のことのように言いくるめていられるものではありません。

マスコミを含め,市民社会の側はどうでしょう。どこの国でも軍隊は管理のノウハウと手段を保持しています。軍は突然のオイル・ショックがもたらすかもしれない不測の事態にすばやく対処できる数すくない組織です。もし、ピークのおかげで市民社会、経済や行政が機能不全に陥れば、軍は治安維持というかたちで社会秩序を保てる唯一の組織になるかもしれません。オイル・ピークは民主社会をそんな形で脅かす可能性もあります。民主社会への軍による治安維持介入という事態を避けるためにも、ピークに備えることが重要になります。石油減耗時代に軍隊の役割をどう定義するのか、市民社会は準備を迫られています。

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