Monday, September 26, 2011

Bring it on

It was one of the best games I have ever seen. And thank god, we came out winner. We will smash the Cats. Carn the Pies!




via http://youtu.be/r9kCJzTMzJY.

Tuesday, September 06, 2011

中国に公金で売り込みをかける原発企業:ウィキリークス

日本に暮らす人にとって東アジアの原発は他人ごとではあり得ない。フクシマの放出した放射能のほとんどは西風で太平洋に流れた。もし中国(や朝鮮半島)で原発事故があれば,西にある日本列島には大量の放射能が降り注ぐだろう。

だから,中国(や朝鮮半島)の原発にも,すくなくとも、日本の原発と同じくらいの関心を払わなければならない。英ガーディアン紙は8月25日付けでウィキリークスが暴露した公電をもとに中国の原発事情をかいま見る記事が掲載されている。

ウィキリークスが今回公開したのは2008年8月29日付けで北京の米大使館からワシントンの国務省、エネルギー省,商務省,国防長官,国家安全保障会議,原子力規制委員会,東京、モスクワ,パリ、ニューデリー,ソウル、ヴィエナ、ブラッセルの米大使館,香港の領事館,台北の在台湾協会(実質的な大使館)などに宛てられた公電

中国は2020年までに50~60基の原発増設をもくろんでいる。北京大使館発とされる問題の文書は,自国の原発企業であるウエスティングハウスとGEがふるわなかった原因について触れ,対策を進言している。
原発の海外での売り込みがどのように行われるのか,そして,それに公金で運営される大使館がどのように絡んでいるのか,「官民一体」の原発セールスの実態が垣間見えて非常に興味深い。

三菱重工(文中に出てくるアレバのパートナー)や日立(文中に出てくるGEのパートナー)や東芝(文中に出てくるウエスティングハウスの親企業)といった日系の原発企業が海外で商売するときに,日本の大使館もこんな感じで動いているに違いない。そんなことが国益だとされ、日本人の払う税金が世界の原発社会化に使われている。原発社会にけりを付けるためには,日本の原発を止めるだけではだめだ。海外公館によるこんな税金の使い方もやめなければだめだ。

中国の原発開発の現状についてはウィキペディアの中国の原子力発電所にリストがある。


(地図はhttp://news.livedoor.com/article/detail/5403698/より転載)

以下はウィキリークスが公開した公電の要約。

●中国の原発プログラムではこれまで競争入札が行われたことは一回しかなかった。応札したのはウェスチングハウス(AP1000)、アレバ(EPR)、そして、アトムストロイエクスポート(VVER - 1000)。
ウェスティングハウスは、三門に2基と海陽で2基、合計4つの原子炉建設契約を獲得した。それをのぞけば,残りの原発は公開入札を伴わず,高度な政治的な配慮に基づくものであった。ウェスティングハウスの落札にしても政治的な決定であった疑いが強く,そのあと,すぐにフランスのアレバとロシアのアトムストロイエクスポートは入札によらず,契約を獲得した。
アレバが受注したのは広東省の台山原発にEPR2基。20年間の燃料供給、使用済み燃料の再処理の支援込みで$160億ドルで受注した。アトムストロイエクスポートは田湾原発の2基増設を受注したが、それにはウラン濃縮装置の供給というおまけもついていた。現在計画中,もしくは建設中の原子炉は30いくつかあるが、4基のAP1000、2基のEPR,2基のVVERをのぞけばすべてはCPR-1000である。

●中国の原発はずっと加圧型(PWR)が主流で,東芝の子会社であるウェスティングハウスは主力のAP1000の売り込みをもくろんでいた。採用を決めた原発の大半を占めるCPR-1000はフランスのフラアトム(現アレバ)がウェスティングハウスのデザインに基づきフランスで「国産化」したCPY型を90年代に導入し、「国産化」した100万キロワット級PWRの原子炉。大半の部品を中国メーカーから調達できるという利点があり、比較的安価で、建設期間が短いと言われている。

●国家エネルギー局(NEA)の張国宝によれば、中国は原発の発電量を2020年までに50~60GWに引き上げる計画だという(現在の目標は40 GW)。これはさらに10~20の新規の原発に匹敵する。この目標を達成するには,今後5~6年以内に建設が開始されるだろう。これらの原発はおそらく内陸部に建設されることになるだろう(注:現在はすべての原発が海岸沿いにある)。これは内陸地方における電力不足に起因する広範な地域での停電を解消する狙いがある。
中国はまだこれらの原発に関する入札プロセスを発表しておらず、入札プロセスを経るかどうかもかなり疑わしい。たぶん、高度の政治決定によるのではないかと思われ,それもプラントごとの発注ではなないのではないかと思われる。

●GEの中国への原発売り込みの要求に応え、大使館は北京駐在のGE担当者と会談した。中国はGEの沸騰水型原子炉(BWR)に全く興味を示さず,GEニュークリアは、前のに入札に招待すらされなかった。
GE担当者によれば、国家発展改革委員会(NDRC)は、加圧水型原子炉(PWR)中心主義できたが,BWRにも理解を示しつつあるようだ。中国の業界筋によれば,BWR導入で部品の調達先が広がることは中国の原子力産業に有益だと考えられている。特にCNNCはCPR - 1000だけでは2020年までに,最大30GWしか容量が増やせないことを憂慮している。またBWRには加圧器や蒸気発生器などがいらないため,必要な部品の数も減る。
GEとパートナーの日立はすでにABWRを4基建設し,日本と台湾でさらに6基を建設中だ。建築期間もPWRは少なくとも48カ月かかるのに比べ、ABWRは37カ月しかかからない。ABWRは唯一稼働中の第三世代原子炉でもある。昨年日本で起きた大地震の震源に非常に近い場所に立つABWRは破損もせず,放射能も放出しなかった。競争相手の技術にも耐震設計はなされてはいるが,まだこのような実戦をくぐってきてはいない。GEの中国代表はそう締めくくった。

●GEは中国へのBWR売り込みに政府の支援を求めている。ウェスティングハウスも同様に支援を求めている。北京大使館はGEとウェスティングハウス双方の原子力権益を代表しており、どちらの技術に肩入れするものではない。
中国の原発市場に食い込むためには競争入札を求めること,将来の計画に最新のテクノロジーを使った原子炉を推奨することが米国企業の権益を有効に拡大できるものと思われる。
具体的にはCPR - 1000ではなく、第三世代の原子炉というより安全な技術の採用を中国に求めることだろう。しかし,それだけではもうひとつの最新型であるフランス製のEPRを薦めてしまうことにもなりかねない。それを避けるためには,ABWRとAP1000両方が持つ高度な「受動安全システム」の存在を強調することだ。これはポンプを使った冷却システムではなく自然の還流など自然の物理的な力に依存する安全システムであり、外部電源や人間の介入を必要としない。これに比べでEPRの安全システムは障害が発生した場合、さらに何層もの「能動的」な安全策をつけることでリスクを回避させようとする。
また、GEとウェスティングハウス双方の商機を増やすため、将来の原発建設をオープンで透明な公開入札によるよう中国に求めていくことも欠かせない。
アメリカ政府がどのようなセールスをかけるにせよ,フランスとロシアを押さえるためには,ハイレベルな努力が継続して行われなければならない。

Monday, September 05, 2011

原発推進派に具合の悪い真実:ウラン供給

原発推進には具合の悪い真実がある。
燃料となるウラン供給の問題だ。「現在の消費レベルで80年は大丈夫なだけの埋蔵量がある」というような説明を耳にしたり目にすることがあるかもしれない。こうした説明はどんな再生不可能な資源についても言われることだが,安心することはできない。まず,「現在の消費レベル」で「埋蔵量」を単純に割るという計算方法は現実的ではない。さらに問題なのは,埋蔵量がすべて掘り出せるわけではないことだ。ピーク以降、鉱産資源は手に入りにくくなり,質も劣り,割高になることはピークオイル問題で既に指摘されている通りだ。

フクシマ以前の2011年1月現在,世界全体では442の発電用原子炉が電力網につながれていた。その設備容量は3億7490万kWh。実際に供給した電力は2009年が2560TWhe(2兆億5600億kWh)で、これはこれまでの最高だった2006年を1000億kWhほど下回る。2007年からの凋落傾向が続いており,2008年に比べると410億kWh減になる。フクシマのおかげで, 特にOECD諸国では原発からの後退、停滞はさらに加速されるかもしれない。

しかし,中国、インド、ロシアを含む非OECD諸国ではフクシマにも関わらず原発の建設ラッシュが進行している。World Nuclear Associationによれば、中国では26基が建設中、52基が計画されているという。その他、120基の検討が行われており,すべてをあわせると198基というものすごい数になる。これらがすべて建設されれば、現在最大の原発国のアメリカを簡単に凌駕するだろう。ロシアでは現在10基の建設が進み14基が計画中、30基が検討されている。インドでは5基が建設中、18基が計画段階にあり,40基の検討が進んでいる。検討中のものまで含めれば,この3国だけで300基以上の新しい原子炉が作られることになる。まさに原発ラッシュだ。これらがすべて建設されたとすれば,現在の発電量の2倍以上の発電量が見込まれ、建設中,計画中のものだけに限ったとしても,現在の6割増になると見られている。原発ラッシュに伴い,ウランへの需要も急増する。国際核エネルギー機関(IAEA)は、ウランの需要は2005年の7万トン弱から2030年には10万トンに増えると予想している。原子炉の数が増えるに伴い,ウランの需要は増えていくが,供給はどうか。

天然ウラン供給に関しては楽観的な見通しが多いが,現在でも世界の原発の燃料として必要な7万トンのうち,鉱山から掘り出されるのはせいぜい5万トンである。鉱山から掘り出されるウランは世界の需要の2/3強しか満たしていない。2009年,ウランの採掘量は前年に比べて7000トン増だった。2010年はほぼ5万3600トン(約3000トン増)。問題なのは,増加のほとんどがカザフスタンからのもので、カナダやオーストラリアなどウラン大国の生産は横ばいが続いていることだ。カザフスタンのウラン生産は2008年から2009年にかけ6000トン、2010年には約4000トン増加したが、これが世界全体の増加とほぼ一致する。オーストラリアは,鉱山が気候変動などの影響を受け,安定した操業ができなくなっている(2010年には前年比2000トン減)。まだカナダも2001年の生産ピークから落ち込みが続いている。しかも,カナダの生産には本来二次供給と見なすべきテイル再濃縮も含まれている。


World Nuclear Associationのデータに基づく世界のウラン生産
グラフはour finite worldから転載

世界の国別ウラン生産についてはここを参照。


天然ウランの一次供給の増加を一手に担い「ウランのサウジアラビア」と呼ばれるほどのカザフスタンだが、その生産はあまり長続きしそうではない。IAEAのレッドブック(2009年版)は、カザフスタンのウラン生産は2015年から2020年には年間2万8000トンで頭打ちになり,その後2025年までに1万4000トンに減り,2035年には5000から6000トンにまで減ると予測している。原発の耐用年数を遥かに下回るわずか20年かそこらの間に、そこまで減ってしまうと見られている。

カナダやオーストラリア,ニジェールやナミビアが生産をあげる可能性はどうなのか。カナダではカナダのカメコ社,フランスのアレバ,出光興産の現地子会社、東電の子会社が出資するシガー・レイク鉱山の開発が進んでいる。フル操業すれば年間7000トンの生産が見込まれる鉱山だが,操業開始は2011年頃とされているが2013年を超えそうで、フル操業となると2016年以降にずれ込みそうだ。ミッドウエスト鉱山も「2010年頃にウラン生産が開始される見通し」だとされているが,操業開始は延期されている。

現在,原発の燃料となるウランのうち,2/3しか鉱山から掘られていないとすれば,残りはどこからくるのか。それは過去の在庫だ。1970年代にウランの価格が低かった時代に蓄えられた民間在庫。もうひとつは50年代から70年代にかけ,東西両陣営で作られた核弾頭だ。

兵器として在庫したウランの切り崩しは、80年代後期の冷戦の終結で核軍縮が進んだ結果だ。ソ連崩壊の混乱のなかで,廃棄の決まった核兵器のウランの盗難や拡散を恐れ、1993年、アメリカはロシアとのあいだに高濃縮ウラン500トンを向こう20年間にわたって買い取る「核兵器解体に伴う高濃縮ウランの処分に関する米国およびロシアの政府間合意」(高濃縮ウラン合意)を締結した。それまでに作られた核弾頭の8割、核弾頭2万発に相当する量が民間の原子炉燃料に転用され、ロシアにはその代償として120億ドルが支払われるというのがこの合意の内用だ。

兵器用の高濃縮ウラン(HEU)には最低でも20%,通常は90%のウラン235 (U-235)が含まれている。これに劣化ウラン(たいていはU-238)やU-235が0.7%程度の天然ウランなどを混ぜて低濃縮し、U-235が5%くらいにして原発の燃料(LEU)にする。この過程で,HEU500トンは約27万トンのLEUになる。1999年から毎年30トンのHEU売却が始まり,09年までに375トン(核弾頭1万5千発相当)が10,868トンのLEUに変換された。これまでにアメリカからロシアには85億ドルが支払われた(米ウラン濃縮会社,USECによる)。

また,アメリカからもこの条約のおかげで不要になった高濃縮ウランが174トン,市場に供出された。米ロ合計、LEU換算34万トンがこの「メガトン(兵器)をメガワット(原発)に」プログラムから市場に放出されたと見られている。つまり,ここ15年ほど、原発の燃料の1/3近くは、過去に爆弾という形でストックされていたウラン(=二次供給)で補ってきたのだ。問題はこのプログラムが2013年に終了することだ。

それ以降,原発ラッシュで急増する需要を満たしていくには,これまで以上にウランを掘り出すか、核軍縮をさらに進めるか、この二つが考えられる。まだ,米ロなどが所有する核兵器には2,000トンのHEUが「在庫」されている。また,世界には「兵器級」のプルトニウムが260トンある(日本には40トン以上)とされており,それらをMOX燃料の「在庫」と見ることもできる。

ロシアは手持ちの核兵器をこれからも整理していくかもしれないが,自国の天然ウラン生産が低迷していることを考えると,まず,自国での消費に振り向けるだろうから、取り出した高濃縮ウランが国際市場には出てこないと見るのが妥当だろう。

こうした供給の逼迫については,資源エネルギー庁も「世界のウラン資源需給の展望と我が国の対応」という2005年の第4回原子力部会の資料でも言及している。その資料が懸念したように、鉱山から新たに掘り出されり天然ウランの量はほとんど横ばいである。

(2005年資源エネルギー庁、第4回原子力部会資料より)


出典】世界原子力協会, The Global Nuclear Fuel Market(2003)、原子力委員会新計画策定会議第5回資料第3号


ただし、この資料の結論は「ウラン燃料安定供給のため、世界的な天然ウランの増産が不可欠」であり、この資料の提言に後押しされるように,日本(企業と政府)は官民一体でカザフスタンのウラン鉱山の開発、検疫獲得に乗り出していったわけだ。それを推進したのが,自民党の原発族の甘利明であり,経産官僚の望月晴文などだ。日本の原発電力会社,原発メーカー,丸紅などの商社もこのカザフにおけるウランの争奪に関わっている(鹿砦社刊『東電・原発おっかけマップ』に詳しい)。こうした「オールジャパン」での取り組みにも関わらず,カザフのウランは原子炉の寿命(30年から40年、最近は60年とも言われる)にも満たない時間で先細りしようとしている。

もし,核弾頭からのさらなる転用がなければ,早ければ2015年頃にはいまよりも2万トン多いウランを鉱山から掘り出されなければならない。そのうち半分はカザフスタン(2015年には2万4000トンに増量の予定)でとりあえずまかなえるかもしれないが,残りはどこからくるのか。原発ラッシュにより需要が拡大していくというのに、天然ウランの生産がそれに見合うようなペースで増えなければ、原子炉はあっても燃料が不足して運転できないというブラックジョークのような状態が出現する可能性もある。

ウラン供給と需要が逼迫してくれば、当然ウランの価格が上昇する。ウランの価格は2011年には50ドル台/1ポンド(約453.6g)U3O8で推移しているが、2000年には10ドル以下だった。2007年6月には136ドルにまで上昇した。

(1980年からのウラン価格の推移)
[世] ウラン価格の推移(年次:1980~2010年)
(出典:http://ecodb.net/pcp/imf_usd_puran.html)

この価格変動の背景にはウランそのものの供給の問題があるほか、ピークオイルのもたらす原油価格の高止まりがある。現在の価格にも、ウラン供給の逼迫を見越した投機マネーの流入が当然あるだろう。IAEAによれば燃料としてのウランの価格が原発の発電コストに占めるのは2割にすぎない。精錬前のウラン価格がたとえ倍になっても原発発電コストへの跳ね返りは6%(OECDの計算では10%)にすぎないと言われている。ちなみに他の燃料源の場合,燃料費が2倍になれば,石炭火力だと発電コストは40%,天然ガス火力なら75%の上昇になる。この数字が正しいにしても,発電コストの上昇はさけられないし、IAEAの計算では考慮されていないが,ピークオイルの文脈で考えれば,発電コストの燃料以外の部分,8割のうち大きな割合を占める運転コスト,発電所や原子炉の建設費は化石燃料の価格に大きく左右される。原発の発電施設や長期に及ぶ使用済み核燃料の安定・維持を原発の「作り出す」エネルギーだけでまかなうことはできない。

2002年には1バレル(159リットル)25ドル前後だった原油価格は2008年には150ドルに迫り,11年半ば現在も100ドル前後で推移している。それを計算に入れると原発発電コストはもっと跳ね上がっていくだろう。

ウランの需要と供給の逼迫,そしてピークオイルが「エネルギー源」であるはずの原発に重くのしかかってくるのはそう遠い先の話ではない。

太陽光発電は万能の救世主か?

脱原発,ピークオイル,環境破壊への対策として「再生可能エネルギー」が大きくもてはやされている。とりわけ太陽光発電への期待が大きい。確かに地球に降り注ぐ太陽エネルギーはものすごい量であり,ハイテクでエネルギー効率の良い社会を維持する、環境にやさしいクリーンな電力源と位置づけられることも多い。

もちろん、太陽光エネルギーなど自然エネルギーをこれまで以上に活用することは原発や化石燃料に頼るよりも「エコ」であり,「持続可能」である場合もある。しかし,ネコもしゃくしも屋根に太陽光パネルを載せればどこでも問題が解決するというような考え方は短絡にすぎるだろう。

現代人は忘れがちだが,自然環境の中からエネルギーを獲得するためには,それはそれぞれの場所によって異なる環境を理解しなければならない。水力発電はどこでもできるわけではない。風力についても適地がある。しかし,太陽光パネルとなると,なぜか,どこでもできるような思い込みをする人が多い。

太陽光発電は「エネルギー負荷がかからない」と思われがちだが、必ずしもそうとは限らないこともある。適材適所,それを理解してかからないと,太陽光発電は百害あって一利無しとなることもある。日が照っているというだけでどこでも太陽光発電に適しているとは限らない。それを理解するためには,まず,太陽光発電装置を作るために投入されたエネルギーを理解し,そして,耐用年数までにどのくらいのエネルギーの量が獲得できるのか,そしてその廃棄にどれほどのエネルギーがかかるのか,まず計算してみることだ。簡単に考えても,まず自分が設置しようとする場所の日射量を知るべきであり,製品の耐用年数をかけてみると、そのパネルが寿命がくるまでに獲得できる電力量がわかる。パネルの製造者は20年とか25年,30年はもつと言うが,劣化を考慮すれば10年、15年で性能はかなり落ちるのではないだろうか。

それぞれの土地の日射量について、ヨーロッパ/アフリカアメリカについてはかなり細かく地域ごとに計算のできるサイトがある。日本についても、そういうサイトがあれば適材適所を考える上で,最も基本となる日射量を数値として把握できるのだが。まあ、日射量は自分で計測することもできるが,大体のところはNEDOのデータが参考になる。これによれば、日本の都道府県庁所在地で一番日射量が多いのは高知、甲府,広島,宮崎の順になるそうだ。大体1日に1平方メートルあたり4kwhだそうだ(元データであるNEDOのデータがうちのピュータでは読み取れないので、これが天候を考慮した年平均値なのか,それとも晴れの日だけのデータなのか不明)。ただしこの数値は最適な角度に設置した場合のデータであり、実際はこれよりもかなり低くなるだろう。



これを日射量の世界地図で比べるとヨーロッパやアメリカのほとんどの場所よりも状況は良さそうだが,太陽光発電を考える場合,忘れてはならないのは発電装置を作るために大量のエネルギーの初期投資が行われていることだ。太陽光発電は大きなエネルギー的借金を抱え,マイナスからスタートする。稼働過程(発電の過程)でほかのエネルギーの投入がいらず、温暖化ガスを発生させないということだけで判断してはならない。

再生可能なエネルギー源を収穫し、貯蔵し、利用するには、きわめて高品質の様々なエネルギー(大半は非再生可能なエネルギー)を投入しなければならない。太陽光を電力に変換して出力する発電機にはいくつかのタイプがあるが、それぞれの部品は空から降ってくるわけではない。人間が製造しなければならない。それには当然エネルギーの初期投資が必要になる。最も一般的なシリコン太陽電池の場合,原料となる珪石(珪砂、シリカとも呼ばれる)を採掘し、不純物を取り除き,発電に使える形にするために膨大なエネルギーがかかる。シリコンの原料は国内に2億トンの埋蔵があると言われているが,現在は金属シリコンの状態で輸入するのが一般的だ。なぜか。それは酸化物を還元するために膨大な電力が必要になるからだ。だから、電力の比較的安い場所がシリコンの供給先になっている。太陽光パネルの部品はシリコンだけではない。パネルの枠組みには軽量でさびにくいアルミの使われることが多いが,アルミは電力を大量に必要とする。太陽光パネルはシリコンやアルミの製造過程でエネルギーが投入されるだけでなく,大気汚染,重金属汚染を引き起こし,温暖化ガスを多量に排出しているので、決して人畜無害な製品ではない。エネルギーの初期投資を下げ、環境負荷を減らすためには,太陽光発電システムの製造を太陽光エネルギーだけでまかなうことだ。

太陽光パネルにどれだけのエネルギーが初期投資されているのかについてはいくつか研究があり,たいていの場所では2、3年すれば、投入されたのに見合うだけの発電ができるだろうという楽観的なものもあれば、エネルギー的に見合うのは耐用年数ぎりぎりだろうというものもある。これらの研究のなかには,廃棄のエネルギーコストまで計算したものもあるにはあるが,たいていのものから見落とされているのは人的資源にかかるエネルギーだ。

目に見える形,商品化されたエネルギーだけが初期投資ではない。太陽光発電の装置は人間が作り出すものであり,「技術革新」にはエネルギーが大量に投入された教育や訓練が必要になる。高度な「技術」は一朝一夕に無から生み出されるわけではない。最終的なパネルの効率は「技術革新」や「研究開発」のおかげでよくなっていくかもしれないが,その効率を生み出す「技術革新」や「研究開発」にはより大量のエネルギーを使わなければならない。「技術」にはエネルギーが凝縮されている。太陽光パネルは膨大なエネルギー投資が行われてきた結果であることも留意しておかなければならない。

そして,それだけのエネルギーを「技術革新」に投入しながらもえられる効率はどれほどのものか、というとどうやらたいしたことはなさそうだ。

『Environmental Accounting(環境収支学)』の中で,パーマカルチャーにエネルギー的な支柱も提供したハワード・オーダム(オダムという表記もあり)は次のように結論している。

「太陽光発電の研究や生産が進むにつれ、太陽光発電装置の製造に必要なモノやサービスの量は年々少しずつ低下してきている。単位電力当たりのコストも、緩やかではあるが低下してきている。しかし、太陽光発電の効率改善が熱力学的段階まで進んだとしても、自然の太陽光発電装置である葉緑体の効率性の足下に及ぶかどうか、という程度のものである。生物物理学の研究によると、効率性を表す曲線を光の強度の関数として描いた場合、葉緑素単体のほうが太陽光発電よりも効率がよいことが分かっている。植物の光合成で行われる太陽光のエネルギー変換は、十億年にわたる自然の選択過程を経て、すでに最高のエメルギー収支を達成していると考えられる」

オーダムが指摘するように,「技術革新」が進んでも植物がこれまでに太陽エネルギーを取り込むため進化してきた効率の足下にも及ばないのだ。植物を含め生命体は,太陽エネルギーの恩恵を何十億年にわたり、主要なエネルギー源としてきた。そして、それを最大限に獲得し利用するための進化を遂げ、最適な形態にたどり着いているのではないだろうか。たかが,人間の「科学技術」がこの効率の良さに迫れるかといえば,はなはだ疑問である。

「再生可能エネルギー」の獲得や貯蔵は利用する場所で何が手に入るのか,まず、それを見極めなければならない。あらかじめ用意した答えをふさわしくない環境に無理矢理押しつけるような態度は人間の思い上がりのエゴであり,「環境にやさしく」もなければ、「エコ」でもない。太陽光発電は決して環境負荷のない技術ではない。それどころか、そぐわない場所では自己満足だけに終わり,実は害を及ぼすこともある。何かをすることで気持ちはよくなるかもしれないが,時には何もしない勇気が必要だ。まずは周囲の環境を観察し、自分の暮らしをエネルギー的に精査することだ。