Tuesday, September 06, 2011

中国に公金で売り込みをかける原発企業:ウィキリークス

日本に暮らす人にとって東アジアの原発は他人ごとではあり得ない。フクシマの放出した放射能のほとんどは西風で太平洋に流れた。もし中国(や朝鮮半島)で原発事故があれば,西にある日本列島には大量の放射能が降り注ぐだろう。

だから,中国(や朝鮮半島)の原発にも,すくなくとも、日本の原発と同じくらいの関心を払わなければならない。英ガーディアン紙は8月25日付けでウィキリークスが暴露した公電をもとに中国の原発事情をかいま見る記事が掲載されている。

ウィキリークスが今回公開したのは2008年8月29日付けで北京の米大使館からワシントンの国務省、エネルギー省,商務省,国防長官,国家安全保障会議,原子力規制委員会,東京、モスクワ,パリ、ニューデリー,ソウル、ヴィエナ、ブラッセルの米大使館,香港の領事館,台北の在台湾協会(実質的な大使館)などに宛てられた公電

中国は2020年までに50~60基の原発増設をもくろんでいる。北京大使館発とされる問題の文書は,自国の原発企業であるウエスティングハウスとGEがふるわなかった原因について触れ,対策を進言している。
原発の海外での売り込みがどのように行われるのか,そして,それに公金で運営される大使館がどのように絡んでいるのか,「官民一体」の原発セールスの実態が垣間見えて非常に興味深い。

三菱重工(文中に出てくるアレバのパートナー)や日立(文中に出てくるGEのパートナー)や東芝(文中に出てくるウエスティングハウスの親企業)といった日系の原発企業が海外で商売するときに,日本の大使館もこんな感じで動いているに違いない。そんなことが国益だとされ、日本人の払う税金が世界の原発社会化に使われている。原発社会にけりを付けるためには,日本の原発を止めるだけではだめだ。海外公館によるこんな税金の使い方もやめなければだめだ。

中国の原発開発の現状についてはウィキペディアの中国の原子力発電所にリストがある。


(地図はhttp://news.livedoor.com/article/detail/5403698/より転載)

以下はウィキリークスが公開した公電の要約。

●中国の原発プログラムではこれまで競争入札が行われたことは一回しかなかった。応札したのはウェスチングハウス(AP1000)、アレバ(EPR)、そして、アトムストロイエクスポート(VVER - 1000)。
ウェスティングハウスは、三門に2基と海陽で2基、合計4つの原子炉建設契約を獲得した。それをのぞけば,残りの原発は公開入札を伴わず,高度な政治的な配慮に基づくものであった。ウェスティングハウスの落札にしても政治的な決定であった疑いが強く,そのあと,すぐにフランスのアレバとロシアのアトムストロイエクスポートは入札によらず,契約を獲得した。
アレバが受注したのは広東省の台山原発にEPR2基。20年間の燃料供給、使用済み燃料の再処理の支援込みで$160億ドルで受注した。アトムストロイエクスポートは田湾原発の2基増設を受注したが、それにはウラン濃縮装置の供給というおまけもついていた。現在計画中,もしくは建設中の原子炉は30いくつかあるが、4基のAP1000、2基のEPR,2基のVVERをのぞけばすべてはCPR-1000である。

●中国の原発はずっと加圧型(PWR)が主流で,東芝の子会社であるウェスティングハウスは主力のAP1000の売り込みをもくろんでいた。採用を決めた原発の大半を占めるCPR-1000はフランスのフラアトム(現アレバ)がウェスティングハウスのデザインに基づきフランスで「国産化」したCPY型を90年代に導入し、「国産化」した100万キロワット級PWRの原子炉。大半の部品を中国メーカーから調達できるという利点があり、比較的安価で、建設期間が短いと言われている。

●国家エネルギー局(NEA)の張国宝によれば、中国は原発の発電量を2020年までに50~60GWに引き上げる計画だという(現在の目標は40 GW)。これはさらに10~20の新規の原発に匹敵する。この目標を達成するには,今後5~6年以内に建設が開始されるだろう。これらの原発はおそらく内陸部に建設されることになるだろう(注:現在はすべての原発が海岸沿いにある)。これは内陸地方における電力不足に起因する広範な地域での停電を解消する狙いがある。
中国はまだこれらの原発に関する入札プロセスを発表しておらず、入札プロセスを経るかどうかもかなり疑わしい。たぶん、高度の政治決定によるのではないかと思われ,それもプラントごとの発注ではなないのではないかと思われる。

●GEの中国への原発売り込みの要求に応え、大使館は北京駐在のGE担当者と会談した。中国はGEの沸騰水型原子炉(BWR)に全く興味を示さず,GEニュークリアは、前のに入札に招待すらされなかった。
GE担当者によれば、国家発展改革委員会(NDRC)は、加圧水型原子炉(PWR)中心主義できたが,BWRにも理解を示しつつあるようだ。中国の業界筋によれば,BWR導入で部品の調達先が広がることは中国の原子力産業に有益だと考えられている。特にCNNCはCPR - 1000だけでは2020年までに,最大30GWしか容量が増やせないことを憂慮している。またBWRには加圧器や蒸気発生器などがいらないため,必要な部品の数も減る。
GEとパートナーの日立はすでにABWRを4基建設し,日本と台湾でさらに6基を建設中だ。建築期間もPWRは少なくとも48カ月かかるのに比べ、ABWRは37カ月しかかからない。ABWRは唯一稼働中の第三世代原子炉でもある。昨年日本で起きた大地震の震源に非常に近い場所に立つABWRは破損もせず,放射能も放出しなかった。競争相手の技術にも耐震設計はなされてはいるが,まだこのような実戦をくぐってきてはいない。GEの中国代表はそう締めくくった。

●GEは中国へのBWR売り込みに政府の支援を求めている。ウェスティングハウスも同様に支援を求めている。北京大使館はGEとウェスティングハウス双方の原子力権益を代表しており、どちらの技術に肩入れするものではない。
中国の原発市場に食い込むためには競争入札を求めること,将来の計画に最新のテクノロジーを使った原子炉を推奨することが米国企業の権益を有効に拡大できるものと思われる。
具体的にはCPR - 1000ではなく、第三世代の原子炉というより安全な技術の採用を中国に求めることだろう。しかし,それだけではもうひとつの最新型であるフランス製のEPRを薦めてしまうことにもなりかねない。それを避けるためには,ABWRとAP1000両方が持つ高度な「受動安全システム」の存在を強調することだ。これはポンプを使った冷却システムではなく自然の還流など自然の物理的な力に依存する安全システムであり、外部電源や人間の介入を必要としない。これに比べでEPRの安全システムは障害が発生した場合、さらに何層もの「能動的」な安全策をつけることでリスクを回避させようとする。
また、GEとウェスティングハウス双方の商機を増やすため、将来の原発建設をオープンで透明な公開入札によるよう中国に求めていくことも欠かせない。
アメリカ政府がどのようなセールスをかけるにせよ,フランスとロシアを押さえるためには,ハイレベルな努力が継続して行われなければならない。

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